転載元:http://mytown.asahi.com/shimane/news.php?k_id=33000680811040001

いわみ多士済々 20081104

 「わが古里」の医療を支える赤ひげ先生  


    大谷己巳四 医師


 市街地から約10キロ。益田市美都町仙道の国道191号沿いに、看板のない少し古びた建物がある。大正時代から続く「大谷医院」だ。旧益田市出身の院長大谷己巳四(きみし)医師(79)は1957年、大谷家に養子に入り、内科医として診察を始めた。半年後に結婚した妻(73)とともに半世紀、この地の医療を支えてきた。

 思い出すのは1963年の豪雪だ。正月2日から4月まで断続的に雪が降り、交通は遮断された。4、5キロ離れた山間部に往復3時間かけて徒歩で往診した。「どうしても来てくれ、と言われたら断れなかった」

 スポーツマンで60歳代まで軟式テニスを楽しんだが3年前、脳梗塞で倒れた。胃がんも見つかり、胃の3分の2を切除した。「ここが引き際」と思ったが、「わしだけは診てよ」と、つきあいの長い患者が集まってきた。今も平日の午前中を中心に多いときには1日4、5人を診察する。

 80歳を迎える来年いっぱいで医院を閉める。そう心に決めている。「町内(美都町都茂)の別の診療所に患者さんの体の状態をしっかり引き継ぐのが、最後の役割だ」




1960年頃の大谷医院(道路沿い中央、数軒が密集している四差路の手前側全体で、生け垣に囲まれ黒っぽく写っています)
                                                下都茂の丘から久保坂、仙道郷を望む

(感想)

 小・中学校の校医先生として健診してもらったことはありました。しかし、幸いなことに、病気やケガで診てもらったことは一度もありませんでした。
 ついに医院を閉じられるのですね、
 小・中学校への通学の行き帰りに、毎日、医院の前を通っていました。生け垣で囲まれ庭木の生い茂った大きなお屋敷で、三角屋根の診療棟は、周囲の民家とは際だっていて、とてもハイカラでした。

 国道191号線の大改修により、益田市街地まですぐの距離に縮まりました。広島市街地・広島駅まで約2時間ほどで行けるようになり、1/3〜1/4の所要時間にと大幅に短縮されました。
 
(1960年当時は、まだ県道でした。狭く未舗装で凸凹穴だらけの砂利道でした。益田川の蛇行に沿ってヒト気のない山間峡谷を縫って、広島県境まで曲がりくねりながらオンボロ道が続いていました。
 学生時代のことですが、東京から遊びに来た同級生が、、益田駅前発最終バスに乗ったばかりに、真っ暗闇の中を曲がりくねりながら40分も揺られ、ひどい恐怖と不安と車酔いに襲われたそうです。)

 2004年には益田市に編入されました。住民の多くが益田市街地の医療機関や時には広島市内の病院をも受診するようになって、村医師としての役割を立派に終えられたのでしょう。
 かっては中国山地に孤立した3000人ほどの小さな寒村に唯一軒の医院でした。
 (超過疎化の波にのみこなれた結果、現在東仙道地区は3000人→1000人に激減しています。旧美濃郡美都町全体では、7500人強→2500人弱に減少し、隣の旧美濃郡匹見町はさらにひどく7500人→1500人弱に激減しており、人口構成をみると怖ろしいほどの老齢化率です)

 本当に長い間ご苦労さまでした。住民の健康を独りで支え続けていただき、ありがとうございました。


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 それにしても≪赤ひげ先生≫はいただけません。無償で善意の奉仕を医師に強要するようなイメージです。マスコミや庶民が、都合良く一方的に作り上げた偶像にすぎません。
 我々医師は医療技術を売る職人(プロ)であって、それこそが誇りであり、ボランティアではありません。

 もともとの≪赤ひげ≫は、金持ちからはバカ高い治療費をとって、一部の恵まれない貧しい人々には無料で治療を施したのです。
 強者が弱者に施しを与えたのであって、余裕のある部分でのボランティアです。
 犠牲を強いられたわけではありません。むしろ絶対的な強者として、自分の治療法を一方的に弱者へ押しつけた部分も当然あるでしょう。その結果が例え悪くても、死のうが腐ろうが片輪になろうが問題になりようがありません。

 全力を尽くして誠心誠意治療をしても、結果が悪ければ賠償を請求されたり、時には犯罪者にされかねない現在の理不尽な医療状況とはまるで違った時代のおとぎ話です。

 医療は本来不確実なものです。医師に権威(プロフェッショナリズム)がなければ成立しない部分も多いのです。
 飛び込み出産、治療費の踏み倒し、赤ちゃん置き去り、夜間のご都合受診にみられるようなモンスター患者の跋扈を許すような単なるサービス業ではないのです。ましてボランティアではありません。



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